平凡と非凡どちらかを選べ
短編小説 平凡。
それは何であろうか。
基準がわからん。誰が決めた?
それすらもわからない。
でも平凡という概念は存在を続け、それを俺たちは有効活用し続けているわけで。
「…で、何すっかな、今日は」
放課後の居場所がない俺にとって、それを探すのはは結構苦痛なことで。
部活に入るわけでもない、勉学に励むわけでもない、かといってこれといった趣味があるわけですらない。ただ漫然と高校生活を送るのみである。
俺にはこれといった特技もないし、特別親しい友達もいない。交友関係が狭いわけでもないが。
「天谷、一緒に帰るか?」
友人の一人に声を掛けられる。今はそんな気分じゃないんだ。
「あー、遠慮しとくわ。今日はなんかダルイ」
「何じゃそりゃ」
ほんとにな。
うちの高校から歩いて十分くらいのところに川がある。清流というほどきれいでもない、濁流というほど濁ってもいない。普通の川だ。
それでも魚はある程度釣れるので釣り人っぽい格好をした人はちらほら見かける。…釣った魚、食うのか?
物思いにふけっていると、まぶたが重くなってくる。マズイ…寝ちゃダメだ…
そう思っても寝てしまうのは寝てしまうので。
眠りの中に落ちていく感覚は一人ひとり違うはずだと思う。
しかし少なくとも俺と同じ感覚を感じる人はなかなかいないはずだと思う。
俺は、舞い上がっていくのだ。
「っは!畜生…」
俺は寝汗びっしょりで起き上がる。
「またかよ…」
俺はうなだれて空を見上げる。すでに日が落ちて、星たちがよく見える。でも星空を見上げて感動するような余裕を今の俺は持たない。
「いい加減にしてくれ」
そう言っても効果がないのはわかっちゃいるんだが。
最近よく見る夢。
いや、夢にカテゴライズされるものであるのかどうかもわからない。 とにかく、「見る」のだ。
それは暗い中のこと。
謎の圧迫感で一杯の空間に閉じ込められたような感覚。そこに囚われてうまく動けない。
そこでは俺は普段以上のちっぽけな存在でしかないのだ。
大いなる存在には決して勝てない、ちっぽけな存在。
大きな「恐怖」という名の何かに追われ続ける運命なのだ。その運命から逃れることは不可能。そうだとわかる理由は説明できない。ただ、本能が語るのだ。『こいつには勝てない』と。
それは具体的なイメージを持たない。ただの観念、いや、ある意味一種の哲学的思考によって確立された概念なのだ。
そんなイメージを寝る度に見るのだ。起きた瞬間は寝汗がびっしょり。
そして起きて数分もたたないうちにその少しつかんだ気がするイメージは失われる。
「勘弁してくれよ…俺の体力がもたねえぜ…」
俺は空を見上げた。おい、シリウスさんでもアルタイルさんでもいいからこれ何とかしてくれよ。
なんとかしてあげようか?
そう言ってくれるわけがないのはわかってる。
「天谷、この問題をといてみろ」
次の日の授業。数学の時間だ。
黒板には三角比のサインやらコサインやらタンジェントとシータ殿が乱舞している。…わからん。
答えを必死にでっち上げようとして「シータイコール30度」
…と言おうとした瞬間。
俺の意識がブラックアウトした。
もちろん、「例」のイメージに襲われながら。
気付けば、俺はベッドに寝ていた。
…保健室か。
「あら、気付いたのね?」
保健室の先生が声をかける。
「気分はどう?」
「…すごく悪いです」
「でしょうね」
…居心地の悪い沈黙。これはつらい。
「一応一通り聞いとくわ。最近寝てる?」
「はい」
「食欲は?」
「あります」
「便通は?」
「全然大丈夫です」
「熱もないみたいだからこれは変ね」
う。痛いところを突かれた。だけども人にこんな夢の話したって信じたりする奴はいないだろう。
「ナルコレプシー…かもしれないわね」
何じゃそりゃ。
「急に眠くなる病気よ」
こんな症状は初めてだ。たぶん違うと思う。そんな難儀な病気じゃない。と思いたい。
「それとも」
先生が口を開く。
「あれかしら」
…あれって何だ?
「天谷克人、十六歳、二学年四組出席番号二番、部活動加入無し」
そのとおりです。
「つまり、平々凡々の普通の生徒」
そういう風に言われたらへこみますね。
「そのあなたがこのような症状を訴えた。そしたら考えられる原因は一つ」
なんですか?
「あなたの『恐怖』そのものが具現化しているということ」
「それは…いったいどういう意味ですか?」
俺はしばらくぶりに言葉を出した気を感じながら言った。
恐怖そのもの?
「あなたの心はおそらくとても純粋。多くを求めず、上昇志向がない。別に悪い意味てじゃなくてね」
「貶されてるようにしか聞こえませんが」
「そのあなたが最も恐れているものが頭の中で具現化している。それが、『恐怖』そのものだったっていうだけ」
は?よくわからない。純粋?俺が?はは、笑えないジョークだね。
「信じる信じないはあなた次第」
先生の話し方が少し強くなってくる。
「そして、これを止めるか止めないかもあなた次第」
どういうことだろうか。
「簡単なこと。あなたがこれまで通り振舞うなら症状は治まらない。症状を治めたいなら、純粋な心を捨てること」
そんな事言われたってどうしろってんだ?
あれか?本能が純粋な心を捨てろって言ってるってことか?
『どうするかは、あなた次第。』
これを読むあなたは、どっちを選ぶ?
─了─
初代に影響されて短編を書いた。
気付いた人は皆無だろうが小説もどきのカテゴリ消してたんですね
短編オンリーにしよう今度からは
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